一つ前⬇︎
さあ2時間のイベントレポートを何時間書いて書くんだってくらい書いてますこのイベントレポート。まだ1回戦半分終わってませんのでびっくりします。
ところでちょっと混乱を呼んでいるようなので解説しますとこのイベントレポートは参加者のチャットの部分は当日そのままですが、その周りのエピソードとか観客の会話とかはイコプさんが「こうだったらいいな」という妄想で書いているだけですので「そうかポップスさんはリアル教師なんだ」とか「サワッチさんは村を焼かれたんだ」とか一切思ってはいけないのでそこのとこどうぞよろしくお願いします。
洋館にひゅげが到着したときのことだった。
館の前に、二人の男がいた。一人の仮面の男。その風貌からはどうやら大会の管理者のようだ。そして、もう一人のオーガの男も、怪しげなサングラスに顔を隠していたが、彼はどうやら私と同じ大会への出場者のようだった。
ひゅげが近くと、仮面の男と、オーガがこちらを振り向く。
「・・・能力者の方ですね。お名前を確認させてください」
「ひゅげ」
「・・・承知しました。会場はこちらです。奥の控え室にてしばらくお待ちください」
ひゅげは無言で二人を横を通り過ぎ、会場へのドアへと向かう。その時、ひゅげはオーガの男が私を妙に気にしているような気がした。単純に対戦相手としての興味だけかもしれないけれど、なにか、それ以上の意識を感じた。でも、気のせいかもしれない。
ドアを開けようとした時。
「ひゅげちゃん?」
オーガに声をかけられた。振り返る。オーガは私のことをじっと見つめている。
「・・・どこかで?」
オーガは一瞬はっとしたような表情を作ると、うつむき、そしてくるりと後ろを向いた。
「なんでもない」
どこかで会った人?ひゅげは少ない朧げな記憶をたどろうとしたが、いつものように、記憶はあの日を境に途切れ、それ以上を思い出すことはできなかった。
「・・・ごめんなさい、私、記憶があまり残っていないの」
オーガは振りかえらず、もじもじと土を蹴っていた。
ー果たして、その1時間後のことである。
日が変わるような時間を迎えながらも、会場の熱気は高まるばかりであった。
次の対戦者を告げる声が響きわたる。
「第四戦!!能力者は、ひゅげぇええええ」
びくっ。心臓がどきどきする。ひゅげちゃんの番だ。
フジコは大きな体を精一杯縮めるようにして、控え室の椅子に座っていた。ひゅげちゃんが先に呼ばれたなら、次はフジコだ。そうなるようにひゅげちゃんの後に入ったから、きっとそうだ。緊張する。でもやらなきゃ。フジコがやらなきゃ。でも心臓がどきどきする・・・
ひゅげちゃんは飲んでいたお酒のような飲み物を机に置くと、ふわっと立ち上がり、部屋から出て行った。その顔は、あのとき手術室に向かったときのひゅげちゃんと同じように、怯えてるようでもなくて、かといって嬉しそうななわけでもなくて、まるでちょっと買い物にいってくるかのような・・・そんな顔に見えた。
ひゅげがステージに消えた瞬間、フジコが呼ばれた。
「そして対戦相手は・・・・残念なことにフレンドの・・・ふじっこおおおおおおおおおお!」
フジコは立ち上がる。頑張る。頑張るぞ。
ひゅげちゃん、今度は、フジコが守るからね。
1回戦第4試合
ひゅげ vs フジコ
「はい座って座って。君たち4戦目やで。段取り覚えよ」
「動悸がする」
「それでは先行はフジコ!」
「はい!」
「ゴリラ」
「ラッパ」
「バイナップル」
「ルビー」
「すごい・・・すごい普通のしりとりだ!」
「お互いの出方を伺っているんだよ」
「でも不思議ね・・・あのひゅげって子、何か・・・覇気を感じないというか・・・」
「・・・確かにな。なんというか、勝とうという意思がまるでないような」
「勝とうとしていない?どういうこと?」
「いえ、私にはむしろ負けようとしているかのように見える・・・まるで、身投げする前の人間みたいに・・・」
フジコはポケットの携帯電話を握りしめる。
ボタンを押せば、会場にきているはずのロッソにメッセージが届くように手はずは整ってる。後は、タイミングだけ・・・。緊張する。でも、やらなきゃ。絶対に失敗しない。
「ビー玉」
その時、ひゅげが大きく息を吸い込んだ。そして小さな小さな、ため息をついた。
来る。フジコは思った。同時に、携帯電話のボタンを押した。
「まわし」
その瞬間、会場の温度が、急に下がった。狭い会場にこもった熱気が、まるで凍りついたかのように張り詰める。
「発動!ひゅげの能力「お終いの花」が発動しました!」
発動能力:お終いの花
「し」で終わる言葉を使ったものは、次のターンで「ん」で終わる言葉を使わなければならない。
「次のターン、ひゅげは「ん」で終わる言葉しか使えません」
「で、出た能力だ!!でも、待って、これはトラップ型の能力・・・本来、あいてに「し」で終わる言葉を使わせて、その次のターンで確実に勝つ能力じゃないの?!」
「それを自分に使ったってことは・・・あの子、やっぱりな」
「・・・死に場所を探しにきたのね」
ひゅげの内臓はもうボロボロだった。でも、あの日結んだ契約のせいか、心臓だけは静かに鼓動を打ち続けた。全身を内側からえぐられるような、慢性的な痛み。お酒を飲み続けることで、少しだけその痛みは引いていくけれど、痛みと引き換えに、頭の中の自分が自分であるための何かも失っていくようだった。このままでは私の体から私はいなくなって、ただの動く体になってしまうと思っていた。最後が欲しかった。
自分の能力に気づいたのは最近のことだ。
お終いの花。
それは悪魔が契約と引き換えに私にくれた、秘密のプレゼントだったのかもしれない。
終わる。
私は私の手で、私という花を手折るの。
そのとき、会場に若い男の場違いな声が響き渡った。
その瞬間、フジコの全身から赤い煙が噴出された。
「フジコの能力発動!「あ行しか使えない術!」」
発動能力:あ行しか使えない術
ひゅげがビールを飲んだか、誰かがフジコにかわいいと言ったときに発動。以後フジコは「あ行」しか使えない。
「以後フジコはア行しか使えません」
「ど、どういうことだーーッ!これもまた自分にだけ制約をかける能力!しかも、ちょっとまてよ、あ行しか使えないって言っても・・・ひゅげは「し」で終わってるんだから・・・」
「ふん・・・どういうつもりかわからないけれど・・・あのオーガ、ウェディを助けたってわけね」
「フジコさん、「し」ですが、あ行だけで答えてください」
フジコはにっこりと微笑むと、言った。
「いか」
「フジコOVER!!ひゅげ選手の勝利です!」
会場に包まれる大歓声。その瞬間、さきほどまで会場全体に立ち込めていた、張り詰めた冷気は霧散した。ひゅげは、心臓をにぎる冷たい手が、手を離すのを感じていた。どうして・・・?あのオーガ、どうして私を・・・。
オーガは嬉しそうに頷くと、ひゅげの目線に気づき、わたわたと恥ずかしそうに会場の奥に消えていったのだった。
ひゅげは、会場の奥で小さくなっているオーガの背中に手をかけた。
「ひゃあ」
「あなたは・・・誰なの」
オーガは恥ずかしそうに、もじもじとする。そして、ぐっと何かを決心したかと思うと、その変なサングラスを取った。そのつぶらな瞳は、確かにどこかで見たような気がした。しかし、思い出せない。
「ごめんなさい、私、大病をしてね。記憶がないの、そのあたりの」
「うん、知ってる。フジコも、ひゅげちゃんの病院にいたんだよ」
「え」
「フジコは盲腸だったけど、ひゅげちゃんがもっと大きな病気で頑張ってるって知ってた。あのとき、フジコが手術をどうしても怖かったとき、ひゅげちゃんが大きな治療を受ける前に、何でもないような顔をして戦ってるのをみて・・・フジコも頑張らなきゃって・・・思ったんだ」
「そういえば・・・あの、ちっちゃな」
ひゅげの茫漠とした記憶の中に、小さな、赤いオーガの男の子の姿が浮かんだ。いっつも隣のベッドで泣いてばかりだった、弱虫のオーガ。でも、そうだ、無事手術を受けて、退院して行ったんだった。
「ひゅげちゃん、あの時フジコに言ったよ。命は神様がくれて、そして神様に最後に返すものだって。だから、神様にお返しするまでは、精一杯大事にしないといけないって」
「・・・」
「だからね、フジコはひゅげちゃんに精一杯頑張って欲しかったんだ」
でも、私はね、フジちゃん。
喉の奥まで出かかったその言葉は、フジコの目いっぱいに浮かんだ涙に押しとどめられた。
「・・・フジちゃん。じゃあ、もうちょっと、見ていてくれる?私、もうちょっとやってみるから」
「・・・!うん!フジコ、ここでひゅげちゃんを応援してるよ!」
フジコは嬉しそうに大きな体を大きく震わせると、パンパンと拍手するように手を叩いた。
ひゅげはその愛らしい様子をみて、少しだけ笑った。
笑ったのは、本当に久しぶりだと思った。
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ところでフジコがいきなり「ラーメン」とかいえばよかったのではとかそういうのは一切受け付けておりません。
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