一つ前⬇︎
そこはヴェリナードの森の中。
人里離れたその場所で、双竜と呼ばれる二人のウェディが魔物と戦っていた。
「しまった!」
避けそこなったダークパンサーの鋭い爪がロイックスの腹部を切り裂く。
激しい痛みに一瞬意識が飛びそうになるものの、直後に暖かい光が体を包んだ。
「ベホイム!」
じんないの回復呪文によって、出血する暇もないまま、傷口が塞がっていく。
ロイックスはさらに獰猛な牙を突きたてようと迫るダークパンサーに向けて剣を振り下ろした。
「ギガスラッシュ!」
ダークパンサーは光の奔流の中に倒れ、動かなくなる。
ロイックスは息を吐くと、剣を鞘に収め、振り返った。
「ふーお疲れ」
「ま、こんなもんだろ」
二人は笑い、腕をぶつけ合った。
剣士ロイックス。僧侶じんない。
二人のパーティはヴェリナード地方では有名だった。
その息のあった戦いから、いつしか人々は彼らを「双龍」と呼んだ。
二人が組めば、倒せない魔物はいなかった。
そんなある日、ロイックスのもとに怪しげな招待状が届いた。
それは戦いへの招待状。
しりとりによる、最強を決める戦いだった。
ロイックスは、招待状をピラピラとさせながら、じんないに話しかけた。
「なあ、俺これに行ってみるわ」
「は?なんだよそれ」
「よくわかんねえが・・・ちょっと面白そうじゃないか。たまには魔物以外と戦うのも」
「あぁー。お前がその子供みたいなキラキラした目をしてるときは、止めても無駄なんだよなぁ」
「ふっふ。わかってるじゃん」
「まあ、何でもいいや。お前が行くとこに俺はついていくよ。お前一人じゃ危なかっしいからな」
その時はまだ、二人は知らなかった。
その戦場が、魔物よりもはるかに危険な魑魅魍魎が、跋扈する場所であることを。
「7戦目、能力者はぺけぴぃぃぃぃぃいい!」
控え室。
司会者のコールによって、先ほどまでバンソーコーを指に一生懸命張っていた男の動きが止まった。ゆっくりと立ち上がる。
謎のヒヨコとともに、ステージに出て向かうオーガ。
「優勝候補が来たね。お手並み拝見」
オーガの女もぼそりとつぶやく。
確かにあいつは当初からいやに自信満々の様相だった。しかし、面白いじゃないか。強い相手ほど戦いは楽しくなるのだから。
ロイックスは立ち上がる。この館に入室した順番であれば、相手は俺になるだろう。
「さあ、そして対戦相手は・・・ロィイイイイックス!!」
やっぱりな。
ロイックスは、じんないにちらりと視線を送る。
じんないは笑っていた。
「よかったよ、いきなりお前と戦うことになるかと思ってた」
「それは2回戦のお楽しみってことだな。ま、行ってくるわ」
二人はいつものように、腕をぶつけ合う。
ロイックスは振り返ると、逆光の中ステージへと出て行った。
じんないは、それが何故だか少し、スローモーションのようにゆっくりと見えた。
一回戦第6試合
ぺけぴー vs ロイックス
「イケメン同士、正々堂々戦おう」
「えっ」
ステージに上がると、オーガは握手を求めてきた。
なんだ、以外と紳士な男なのかもしれない。
ロイックスはイケメンの是非はともかく、オーガの握手に答えた。
そのオーガの体からは何のオーラも見えない。
強力な能力者は平常時であっても、その余韻は漂わせているものだ。
かおりしゃんとか言ったか、あのエルフの女のように。
このオーガも、何らかの能力者であることは間違いないが、それほど強い能力ではないのかもしれない。
まあ、拍子抜けはさせないでくれよ。
俺は強いやつと戦いたいんだから。
「先行はロイックス。どうぞ!」
「けつあご」
じんないは胸騒ぎがしていた。
つい先、ステージに向かった時のロイックスの後ろ姿が頭から離れなかった。
何故だ。何に俺は、こんなに不安になっている?
「ゴリラ」
じんないは胸に去来する第6感としか言いようのない何かに、いてもたってもいられず席をたった。ふらふらとステージに向かう。
スタッフと思われる黒服の男たちが、それを見てじんないを制止しようとする。
しかし、じんないはその手を振り払うようにして、ステージに進んだ。
「ランドセル」
じんないがステージに顔を出したまさにそのとき。
ロイックスは、ただ静かに、崩れ落ちた。
「ぺけぴーの能力、ニープレスナイトメアが発動」
「お前もまた、紛れもなく強敵だった」
「ロイックスは死にました」
発動能力:ニープレスナイトメア
最初にランドセルって言った人は死ぬ。
刹那の静寂ののち、観客たちの悲鳴が会場に響き渡った。
「え?なんなの!?」
「おいおい、まじかよ」
「即死・・・能力!!」
ざわめきが止まらない会場。そしてそれは、能力者たちも含んでいた。
「あまりのチート能力!」
「発動条件は・・・いったい?」
じんないは、ロイックスの体を抱きかかえた。
暖かい。ただ力なく、眠っているようだった。
しかし僧侶の彼には、理解することができた。
彼がもう息をしていないことを。
彼の命が、体を離れていることを・・・・。
「・・・??」
理解はできても、受け入れられなかった。
目の前で起きていることが、まるで映画のワンシーンのかのように、現実感がなかった。
騒然とする会場を尻目に、司会者は何だか嬉しそうな様子で解説を始めていた。
「ロイックスの能力はツッコミ。30%の確率でカウンターが出るというものでしたのでサイコロを振ってみましたが、出ませんでした」
「能力が出ていれば死んでいたのはぺけぴー。まさに死闘でした」
ぺけぴーはそれを聞いて楽しそうに口笛を吹いた。
「紙一重か」
死んでいた・・・?
死んだ・・・?
ロイックスが、死んだのか・・・?
そのとき、じんないの心で何かが弾けた。
ロイックス、お前が死ぬわけない。
俺という僧侶がいるのだから、お前が死ぬわけがないんだ。
じんないはゆっくりと立ち上がると、ぺけぴーを見つめた。
そのぼんやりとしたじんないの眼差しは・・・笑っているように見えた。
ステージからは悲鳴が聞こえる。
誰かが死んだとか、どうとか。
しりとりで死んじゃうなんて・・・そんなことあるの?
フィスは少し怖くなった。
「どうしよう。帰ろうかな」
傍のケンタも心配そうにフィスを見つめる。
「ケンタ・・・お座り!」
ケンタはその言葉を聞いて、嬉しそうに腰を下ろす。
尻尾をフリフリフリと振りながらも、見事なお座りだ。
「そうだよね・・・お前もこんな立派にお座りがやれるようになったんだし。今度は僕が頑張らないとね」
フィスはリールをテーブルに巻きつけると、ケンタの頭を撫でた。
「よし、じゃあ、頑張ってくるよ!」
日も変わった深夜1時。
いよいよ残されたのは第8試合、一回戦最終戦である。
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