一つ前⬇︎
時は少し戻り。
大会が始まる少し前のことであった。
沈みかけた夕日に赤く染まり行く洋館の前に、二人の男が立っていた。
「いよいよですね」
「ああ、粒ぞろいが集まるらしいぞ」
「しかし、長老もこれだけの能力者の中でたった一人だけをお選びなさるなんて、もったいない」
「・・・中途半端な能力は不要ということだろうな。長老はそれほど奴らを危険視している」
「まあ、いずれにせよ、私は粛々と試合をとり仕切るのみ・・・さあ、そろそろ能力者達が集まってくるころでしょう」
男は古ぼけた仮面を被った。
もともと表情の乏しい男だが、その表情を持たない仮面に感情は一切を隠された。
「似合っているじゃないか」
「よしてください、それほど気に入ってはいないのですから」
その時、赤いオーガが館から顔を出す。
「ねえ、フジコは奥にいればいい?」
「そうですね、フジコは受付を手伝ってもらいましょうか」
「はーい!あ、でもフジコも出るからね、ひゅげちゃんの後に」
「わかってますよ」
仮面の男は、オーガを連れて館の入り口に立った。
沈みゆく太陽を見つめる。
果たして、我々が求める能力者が現れるだろうか。
…いや、仮に現れないとしても。
これほどの戦いを間近で見る機会はなかなかない。
男は仮面の下、これから現れる能力者達の戦いに心を踊らせていた。
鳴り響く歓声。丑三つ時を迎えようとする時ながら、観客達は館に残っていた。
そして壇上には、四人の能力者が立つ。
あるものは目を煌めかせ、またあるものは泥酔し、
あるものは不敵に微笑み、あるものは不遜に笑っていた。
頼もしいものだ。
敗れたもの達も含め、素晴らしい能力者たちだった。
長老にどう言って報告しようか。
いや、いずれにせよ、まずは決勝戦だ。
どんな素晴らしい能力よりも、何よりも必要なのは勝ち切る力・・・。
それが、我々の求めるものなのだから。
「それでは、決勝戦です」
司会の男が両手をあげた。そして叫ぶ。
「さくら・まう vs ひゅげ vs ほしみ vs ぺけぴー!!」
「さあ、能力者の頂点を決める戦い!これが最後です!」
「決勝戦は四人でのバトルロワイヤル!さくらまう➡︎ひゅげ➡︎ほしみ➡︎ぺけぴーの順で戦います!」
沸き起こる歓声を浴びながら男は思った。
さあ、私に見せてください。
頂上の戦いというものを。
能力者しりとりバトル 決勝戦
さくら・まうvs ひゅげ vs ほしみ vs ぺけぴー
さくら・まう
能力:フルーツ・バスケット
果物の名前が出たときに発動。以後場全体は果物の名前しか答えられない。
ひゅげ
能力:お終いの花
「し」で終わる言葉を使ったものは、次のターン「ん」で終わる言葉しか使えない。
ほしみ
能力:お天気お姉さん
相手が「お・て・ん・き」のどれかの文字を使用した時に発動。
以後その発言者はお天気関連の言葉しか使用できない。
「雨天」「梅雨」など、同じカテゴリーの言葉を2回続けると解除される。
尚、ほしみ自身には発動しない。
ぺけぴー
能力:ニープレスナイトメア
最初にランドセルって言った人は死ぬ。
「さあ、決勝戦スタート!さくら・まう選手からどうぞ!」
さくら・まうは大きく息を吸い込んだ。
残りの能力者三人を見渡し、そして最後にほしみに小さくウィンクする。
正々堂々、勝負だよ!
「さくら」
ひゅげは、アルコールによって朦朧とする脳脊髄と必死で争っていた。
痛みも、意識も、全てが体から離れていく。
真っ暗な世界の中で、呼びかける声が聞こえる。
私も、そっちに行きたい。
ふじちゃん、ごめんね…。
「乱視」
その瞬間、ひゅげの周りに、突風が吹き荒れる。
同時に、ひゅげの心臓が冷たい何かによって取り囲まれていった。
「発動!能力、『お天気お姉さんが』ひゅげに炸裂!さらに、ひゅげの能力『お終いの花』もひゅげに発動!」
発動能力:お天気お姉さん ➡︎ ひゅげ
発動能力:お終いの花 ➡︎ ひゅげ
「次のターン、ひゅげは「ん」で終わるお天気関連の言葉しか言えません」
「同時に二つの能力が・・・そしてあの子・・・やっぱり、最期を・・・」
「うん・・・しかし、お天気お姉さんの発動条件は何なんだろうな」
「では、ぺけさんの発動条件を暴くとしますか」
ほしみは、ぺけぴーを見つめた。
発動条件不明の、即死能力。この三人の中ではもっとも危険な相手。
私の想像している発動条件がもしその通りだったなら…私は死ぬことになるけれど。
それを恐れて戦ったままでも、結局勝てる相手じゃない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。行くよ。
「シール!」
「あっ!「る」で終わる言葉!」
「下馬評では「る」で終わりが、ニープレスナイトメアの発動条件じゃないかとされていたが・・・どうか」
「・・・」
司会の男は動かない。
ほしみの心臓は変わらず動き続ける。
「あれ・・・これかと思ったのに」
ぺけぴーは首をゴキゴキと曲げると、サングラスの下に凄絶な笑みを浮かべた。
「る」で終わる言葉が発動条件?
そんな生やさしいことで得られるほど、ニープレスナイトメアは下等な能力ではない。
君たちとは、制約の重さが違うのだよ…!
「ルビー」
「ビーズ」
ひゅげちゃん・・・。
フジコは会場の端で、両手を握りあわせていた。
壇上が見えない。
もう止められない。
フジコにその力はもう無いし、
それに、ひゅげちゃんが、選んだことだから。
ひゅげは言った。
「命は神様がくれて、神様に返すもの」だって。
ひゅげは、精一杯命を大事にして、そして返すときが来たのだろう。
ひゅげちゃん。
お疲れ様。がんばったね。
フジコの涙が、地面にぽつり、ぽつりと染みを作っていた。
刹那の静寂が訪れた。
司会の男が、その静寂を破る。
「ひゅげ、「ず」で始まり、「ん」で終わるお天気関連の言葉をどうぞ」
目を閉じていたひゅげは、ゆっくりと目を開いた。
かすかな声で呟く。
「ずっとお天気です」
明るい。世界がとても明るかった。
ひゅげの意識は、静かに遠ざかっていった。
「ひゅげ、おつかれさま。ゆっくり休んでください」
「ひゅげOVER!!!」
館の人たちに抱きかかえられて、ひゅげはステージ裏に消えていった。
「お疲れ様です!」
残りは三人になった。
ひゅげさんの様子がおかしかったのは心配だけれど、まずはこの戦い、勝つんだ!
さくらまうは、二人を見つめる。
そろそろ、私の能力、出させてもらうよ!
「ほしみ選手から新しい単語でスタートです」
「ランダム」
「むかで」
「デート」
「トルク」
「栗」
「発動!ほしみ選手の「フルーツ・バスケット!」以後全員果物の単語のみです」
発動能力:フルーツ・バスケット ➡︎ 全員
「来たー!フルーツバスケット!!」
「私の分まで、勝って!まうちゃん!」
さくらは尻尾をくるくるっと振る。
村の果樹園での生活が頭にフラッシュバックする。
果物で私が負けるわけにはいかない。
これで一気に決めるよ!
「りんご」
その時、会場全体に漂っていた、甘い香りを切り裂くように、突風が巻き起こる。
それはさくらの周りに収束し、轟々と音を立てた。
「こ、これは・・・ほしみの・・・!」
風に取り囲まれながら、さくらは、ほしみを見た。
ほしみは黄色い傘をくるくると回していた。
まうちゃん。あの時の約束通り、正々堂々戦いましょう。
私の能力と、あなたの能力・・・どちらが強いか決める時よ!
「さくら・まうに「お天気お姉さんが発動!」
発動能力:お天気お姉さん ➡︎ さくら・まう
「以後、さくら・まうはお天気関連の果物しか答えられません」
「なんだそれwww」
「こ、これはきつい」
「ゴールデンキウイ」
「いちご」
さくら・まうは固まった。
額に小さなシワを寄せて、一生懸命考える。
「(お天気の果物って、そんなの存在しないよ;;)」
時が流れていく。
体の周りを覆う空気の層が、重く感じた。
司会の人が手をあげる・・・。
「・・・豪雨に耐えた梨」
「上手www」
「これは・・・!?」
会場皆が司会を見つめる。
司会は一瞬動きを止めたが、静かに、首を降った。
「すごくグレイトだけど・・・」
「さくら・まうOVER!!」
その瞬間、さくらまうの周りの空気の層が弾け飛んだ。
そして、部屋全体に漂っていた甘い香りも消えていった。
あーあ・・・。
負けちゃった・・・か!
さくらまうはコテっと、座りこんだ。
ハッチさん、ごめんね優勝できなかった!
悔しがるさくらに、会場からはしかし暖かい拍手が与えられていた。
「お前もまた 紛れもなく強敵だった」
ぺけぴはーはそう言って頷く。
ほしみも、さくらまうににっこりと微笑んだ。
そして、お互い、ゆっくりと向きなおる。
さあ。
ついに、残ったのはあと二人。
勝つのは、そして、ただ一人。
「能力『フルーツバスケット』は解除されました。ほしみ選手からどうぞ!」
ほしみは、傘を握りしめた。
ここまで来たら、小細工はいらない。
ニープレスナイトメアの発動条件はわからないままだけれど、私が死ぬより先に、お天気お姉さんでであなたを倒す!
「はみがき」
「きんにく」
ぺけぴーの周りに、突風が吹き荒れる。
ぺけぴー鼓膜が押さえつけられるような痛みを感じながら思った。
来たか・・・これが幾人もを打ち倒した能力・・・お天気お姉さん・・・
「発動!ぺけぴーに『お天気お姉さん』が発動!」
発動能力:お天気お姉さん ➡︎ ぺけぴー
「先に発動したのは、お天気お姉さん・・・!」
「しかし、ぺけぴーの能力は一撃必殺、まだわからない」
「お互いの発動条件がわからない中での戦い・・・最終決戦にふさわしい戦いね」
「クレーム」
・・・。
静寂が訪れる。
ぺけぴーは動かない。その額にかすかな汗が見えた。
「決まる・・・か?」
しかしその瞬間、ぺけぴーはおもむろに言った。
「蒸し暑い」
「・・・いやこれは」
「セーフ!!!」
「いいんだ?!」
仮面の男は湧き上がる疑念の観客の声を完全に無視した。
もう少し、見ていたいんですよ。
この戦いの行く末を。
そして、この夜の終着駅を。
ほしみは動揺を見せなかった。
まっすぐに行く。
私の能力が発動している以上、完膚なきまでに戦いぬいて勝ち切るんだ。
私の天気予報は、絶対に外さないんだから。
雨の中、畑の前でおじいさんと二人抱き合って喜んだあの日。
世界を変えることはできないけれど、世界を味方にすることはできることを知った日。
この能力は、目立たないし、派手でもないけれど。
最強の力なんだ。
「いど」
「どしゃぶり」
ぺけぴーは「ら」に寄せることができない。
天気縛りという厳しい制約の中で、一撃必殺のニープレスナイトメアという死神の鎌は、その輝きを完全に失っていた。
「リップ」
二度目の沈黙が訪れた。
歓声も消える。
静かな、静かな沈黙が続く。
両拳を握りしめるぺけぴー。
しぼりだせ、しぼりだすんだ。
「ぷ」で始まる天気関連の言葉を・・・!
司会の男が手をあげる。
カウントダウンが、始まるー。
「ぷ」で始まる・・・天気関連の言葉・・・!
「ぷ」で始まる・・・天気関連の言葉・・・!
ぺけぴーはハッと顔をあげると、叫んだ。
まだ俺は戦える!!
「プーケットウェザーインフォーメーション!!」
「?」
ぺけぴーは静まりかえる会場を、キョロ、キョロと見渡した。
その時、どこからか、小さな1枚の赤い花びらが落ちてきた。
ひらひらと漂い、地面に落ちる。
ぼそりと、呟くものがいた。
「インフォーメーショ、「ン」・・・」
司会の男は両手をあげた。
「ぺけぴー、OVER!!!」
「ぐあああああああ」
吹き飛ぶぺけぴー。
司会の男はほしみの手を取り、掲げる。
「最強の能力者は・・・・」
「ほしいぃぃみぃぃぃぃ!!」
「ほほほほ!」
ほしみはくるりと回り、おしりをふる。
そして地面に体半分頭からめり込んで気絶しているぺけぴーに近づき、背中をポンポンと叩くと、会場に向き直り、ぺこりと頭を下げた。
「面白かった!みんな強かった!」
爆発のような大歓声が会場を覆った。
拍手はいつまでも鳴り止まなかった。
「おめでとう!」
「悔しいけど、おめでとう!」
「やるじゃないか」
「優勝、おめでとう!!」
観客、出場者入り乱れての大円団。
平日の午前1時すぎにもかかわらず、皆戦いの余韻に酔いしれた。
そして、こうして。
狂乱の一夜は、終わりを迎えたのだった・・・。
朝。
昨夜の喧騒が嘘のように静まりかえった館の一室で、一人のオーガが心配そうに、ベッドの上のウェディを見つめていた。
ドアががちゃりと開いた。
「やあ、おはよう・・・。どう、その子は」
「うん・・・よく眠ってるよ」
「・・・お終いの花でどうこうというよりも、きっと泥酔して倒れただけなんだろう。そのうち目をさますよ。ひどい二日酔いかもしれないけどね」
そう言って、男は水差しからグラスに水を注いだ。
「ほしみさんは?」
「彼女には賞金と、また連絡するとメッセージを伝えた。しかるべき本当の戦いへの招待をさせてもらうとね。驚いていたが、嬉しそうでもあったね。それでこそ我々が選んだ甲斐があるってものだ」
「そうだね・・・これは、始まりにすぎないもんね。ねえ、気づいてた?あの三人のこと」
「ああ、プリック、ノンブル、にぐ・・・奴らの軍勢の能力者だ。俺たちより先に奴らに引き抜かれたんだろう。大方、今回は偵察にきたってとこか」
「次の戦いで、戦うことになるんだろうね・・・。僕たち、本当に勝てるかな・・・彼らも含めて、あんな恐ろしい軍勢に・・・」
オーガは不安そうに、顔をうつ向けた。
ウェディの男はその肩をポンと叩くと、言った。
「大丈夫だ。ほしみだけじゃなく、今回の大会の目ぼしい奴らには声をかけておいた。みんな頼れる奴らばかりだっただろう」
ウェディは、窓に近づくと、館の外を眺める。
この美しいアストルティアを守ること。
それが俺たちの使命だ。
そのために、来る戦いに、負けるわけにはいかない。
おそらく、本当の戦いは8月か9月・・・。
「さあ、フジコ。戦いの時まで、今は休もう。私も少し疲れたよ」
「リーダー最近なんだか睡眠不足にも見えたからね」
「うん、ブログっていうのをちょっと書きすぎててね・・・」
「ブログ?何それ」
「ん・・・まあ・・・そうだな」
イコプは少し考えると、顔をあげる。
「私の、冒険の書みたいなものさ」
イコプはそういうと、にやりと笑ったのだった。
ということで!
能力者しりとりバトル第2回!
8月後半から9月くらいで予定します!
次回はちゃんと告知して事前に能力とか打ち合わせしたりしてやります!!
今回参加してくださったかたも、初めての方も、観客としても、みなさん是非是非ご参加くださいませ!
ここ2週間くらいしりとりばっかり書いてたブログでしたが楽しかったです!
ドラクエ一切関係無くなってましたが読んでくださった方ありがとうございました!
追記:第2回の様子へ続きます↓