アリー
「ウェルカムバック、アリー」
「ハイ、アイムバック」
アリーは、飲みかけのスターバックスコーヒーをテーブルに置くと、デリで購入したサーモンスシを広げた。お気に入りのbossa novaがスピーカーから流れ始める。
「アリー、そういえば、あなた宛に手紙が届いていたわよ」
「へえ?あら・・・フロム・アストルティア、懐かしいわね」
アリーはその真っ黒な封筒を、躊躇うことなく破り開く。
そこに現れた手紙には、奇妙な1文のみ、記されていた。
「能力者:アリー ハツォーツラーが今鳴り響く」
アリーの手から、その手紙がはらりと落ちた。
「あら、アリー?どうしたの」
「マム・・・戦いが、始まるみたい。私、行かなくちゃ」
アリーは母親に向かって微笑むと、目を閉じた。
世界のどこにいたって、彼らからは逃れられないんだ。私が、能力者である限り。
能力は「アメリカンガジェット零式」
発動は容易であるが、対象は両者に及ぶ。対戦者よりもアメリカに精通していることが能力を生かす絶対必要条件となる。
ジズー
荒涼とした大地に煙を立てて、大きな獣が駆け抜けていた。
その獣は、黄金の毛皮を身にまとい、その皮膚の裏側には、はち切れそうな隆隆たる筋肉がひしめいている。
テランガの黄金のライオンと呼ばれている、若い獅子だった。
そしてその背中にはいつものように、一匹のプクリポが鎮座している。
「ライオン、止まれ」
ジズーは獅子に命ずると、風の匂いを嗅いだ。
はるか空の彼方から、一匹の黒鳥が飛んでくるのが見えた。
この辺りには本来いない鳥だ。
鳥はジズーの周りを旋回すると、そのくちばしから、一枚の黒い封筒を放つ。
ジズーはそれを手にとった。すでにジズーは察していた。
「ライオン、君の力、使わせてもらうときが来たようだよ」
セネガルの大地に、長く獣の咆哮が響き渡った。
能力は「テランガのライオン」
発動条件が容易である上に、対象が相手のみという強力な能力。
3ターンという縛りはあるものの、能力発動時は圧倒的有利に試合を進めることが可能となる。
デスノ
小さなビルの片隅で、デスノはいつものように酒を飲んだ。
曲がっていく世界。ネオンに雑踏が混ざり、虹色は鈍色に落ちていく。
パンパンに膨らんだ財布は、血に染まっていた。
震える手で、一枚の写真を取り出す。
写真の中の色あせた彼女の表情は、滲んでよく見えなかった。
デスノは詠った。
枯れた声で。
世界に向けて悲鳴をあげるように。
手を握る。
白い手。
笑顔。
思い出すというか想うとする。
笑ってしまうよ。僕も。
写真。
笑顔。
笑ってしまうよ。僕も。
捧げてしまうよ。人生を。
バキバキの詐欺師でもね。
クラクラのメンヘラでもね。
クタクタのヒステリックでもね。
クラクラのジャンキーでもね。
(デスノブログより引用)
倒れたデスノの体を、黒服の男が担ぎ上げた。
デスノはそれを神様だと思った。
能力は「ジーザスPAY」
多額のゴールドと引き換えに、ほぼ必殺の制限をかけるワンターンキル系の能力。
発動条件が特殊であるため、能力発動できるかは相手の趣向次第である。
ノンブル
「にぐ、こんな感じで良かったか、手紙」
ノンブルは書き上げた手紙を、ぴらぴらとにぐに示す。
しかしにぐは、見向きもしない様子で、「それでいいわ」と言った。
まったく、こういうことは何時も俺にやらせるんだ、あいつは。
しかし、ノンブルは不満を感ずることもなく、口笛を拭きながら、黒い封筒に手紙を入れていく。
ノンブルは楽しみだったのだ。久しぶりに、思う存分能力が使えることが。
知らず知らずのうちに、笑みが溢れた。
その瞬間、一面に黄色い光がほとばしった。
「ちょっと、ノンブル!あんた、家で能力出すなって・・・言ったじゃないwww」
「あ?」
「あwwwじゃないwwwわよwwww」
椅子から笑い転げるようにずり落ちるにぐ。
またやっちまったか。
まあ、いいか。にぐもたまには笑ったほうがいいよ。
ノンブルは封筒に封をして、その出来栄えをにんまりと眺めていた。
能力は二つ。
それぞれしりとりには直接関係しないものの、相当数の観客がいた場合に、場を一気にカオスに引き込むことが可能。司会者の処理能力を超えた白チャで大会ごと崩壊させる可能性がある、爆弾能力である。
ハル
カミハルムイに名高い旧家の令嬢。
彼女は物心着くまで、その屋敷で育った。
そして厳しい和の教えから逃れるように、18の時に彼女は家を棄てる。
遥かに広いアストルティアの大地での冒険。
その中で、幾度となく迫る危険に、彼女の中の和の力が助けてくれた。
「あれほど嫌いだったのにね、この力」
巨大な熊のモンスターが彼女の背後から忍びよる。
彼女は振り返ることなく、つぶやいた。
「花は咲いたら、花ではなくなる」
蓮華の花が、グリズリーを覆い尽くすように現れる。
窒息するかのようにして、どう、と倒れるモンスター。
「さあ、そろそろ、恩返しの時間かな」
ハルは遠いウェナ諸島へ向かうことにした。
カミハルムイがくれたこの力を、世に示す大会があると聞いていた。
能力は「大和撫子」
カタカナ語にて発動。その後カタカナが使えなくなる。発動条件を知るものは回避できる能力であり、相手だけに発動させることも可能。今大会においてはアメリカンガジェット零式との相性が最悪であり、両者発動すれば必ず何方かが負けることになる。
フィーネ
「わし、もうだめなんじゃろか」
「おじいさん、心配しないで。ほら、これを飲んでみて」
乳ばちに溜まったとろりと白濁した液体。
弱った老人は、弱った嚥下に鞭をうち、流し込むようにそれを飲み干した。
カっとお腹が熱くなる。
萎びた腕に、少しだけ力が染み込んでいくような気がした。
「これを1日3回、食間に飲んで。きっとよくなる」
老夫婦はフィーネに手を合わせる。
カミハルムイに伝わる秘術、漢方。
この技を世界に浸透させるために、フィーネは旅をしていた。
そして、いつしか、その技は能力として世界に知れ渡っていた。
フィーネは老夫婦の家を後にした。
老夫婦から渡された、黒い封筒を開くのは、少し先のことだった。
能力は「漢方!粉塵爆発の術」
厳しい発動条件ではあるが、長期戦になるほど発動可能性が高くなる。一度発動しさえすれば、漢方医学に知識のない相手にとってはほぼ必殺の能力。勝負は長期戦に持ち込めるかにかかっている。
ぺけぴー
「ペケピー!目ヲサマセ!ペケピー!」
あの夜、洋館から担ぎ出されたぺけぴーは目を覚ますことなく、眠り続けていた。
強力な能力の代償、それはぺけぴーの体を想像以上に蝕んでいた。
ぺけぴーは長い夢を見ていた。
夢の中で、ぺけぴーはまだ子供だった。
顔のない母が、ぺけぴーに語りかける。
「ぺけぴー、ごらん、新しいあなたよ」
そこにはたくましい体躯をしたアフロの男が立っていた。
「お母さん、違うよ。僕はここにいるよ」
しかし母は、かぶりを振る。そして、アフロの男の手をとると、歩き出す。
「お母さん!待って!違うよ!僕は、僕はこっちだよ・・・・!」
「お母さん!」
ぺけぴーは叫びながら、目を覚ました。
「ぺけぴー!!よかった!」
駆け寄る仲間たちに、しかしぺけぴーはきょとんとした様子で答える。
「だれ・・・?おじちゃんたち・・・」
愕然とする仲間たちに、ぺけぴーは不安げにキョロキョロとあたりを見渡すばかりだった。
能力は「罷通」
自由意志で発動できる、1ターンの無敵能力。窮地を1ターン回避できるが、発動効果はたったの1ターンのみ、能力の使いどころがカギとなる。
ホユ
「笑いなさい」
彼女は地獄を見てきた。
飢饉に蝕まれる農村。
廃墟と化した戦場。
その中に彼女はふらりと現れ、道化を演じる。
「笑えるもんか、こんな時に」
そんな声に、彼女は首を振る。
「笑える、じゃないの。笑うのよ。能動的に。意識的にね」
嫌がる相手の口の端を両手で掴み、無理やりにも口を歪ませる。
希望は、笑顔から生まれることを彼女は信じていた。
だから、黒服の男を前にしても、彼女は言った。
「その仮面の下の笑顔を見せてちょうだい。それで決めるわ、出場するか」
能力は「女神の笑壺」
発動条件はその場の雰囲気次第。実質ウケなくても問題ないため、能力としては貧弱ながら、精神的に圧迫する力は比類ない。ノンブルの「ジュピタージャズ」と同じ発動条件であり、能力がぶつかり合った場合のカオスは避けられない。
サワッチ
「マリア、希望とは何なのでしょうか」
前回の大会に敗れたサワッチは、再び崩れた教会を訪れていた。半顔を失った女神像は答えない。
「私は、希望と、そして絶望を知りました。しかしそのどちらを持ってしても、勝つことはできなかった」
降りしきる雨が、穴の空いた屋根の隙間から滴る。
答えのない女神像に寄りかかるようにして、サワッチはいつしか眠りについた。
目が覚めた時、雨は止んでいた。
そして、振り込む光の隙間に、虹の光が見えた。
電光のようにサワッチの脳裏にひらめく。
それはマリアからの啓示だった。
「虹・・・それは、一つに定まらない光・・・変化」
サワッチは光に手を伸ばした。滴る涙に、誓った。
今度こそ、勝つと。
能力は「希望絶望レインボウ」
前大会は4つの能力を持って挑み司会者を混乱させた反省を生かし、今大会は1つの能力に絞った。しかしやっぱり能力が複雑でようわからんというさすがはサワッチである。たぶん強いような気がする。
ジュイ
彼女は今日も病棟を走り回っていた。
彼女はいわゆる、「引く人」である。
いつだって彼女が勤務のときには、病棟が忙しくなるのだ。
「ジュイ!603のプランさん!泡吹いてるわよ!」
「はいはーい!ただいま!」
点滴セットをもって馳け廻るジュイ。
彼女は「引く人」ではあるが、しかし、彼女が勤務のときに、不幸が起こったことはない。
「プランさん、もう大丈夫だからね、お大事に」
患者の頭に氷枕を置いて、ジュイは微笑む。
その手は暖かい光に包まれていた。
能力は「おたんこナース」
体調が悪そうな人が会場にいる可能性は低いものの、発動しさえすれば「病名しばり」という凶悪な制限をかけられる。ただし代償も大きく、次のワードがお大事に縛られるため、一度返されればリターンキルされる可能性が高い、諸刃の剣。
にぐ
「ねえ、この戦い、あなたはどう見る?」
にぐは、問いかけた。
紫色のローブに包まれたウェディの男は、興味深そうに答える。
「意外だね、にぐ。君が、怯えているなんて」
「別に怯えているわけじゃないわ」
にぐは肩の角をぽりぽりとかいた。
「奴らは強い、でも私たちのほうが強い。それに、奴らは本丸を出そうとしていない」
「本丸・・・?ということは、にぐ、こちらはもしかして」
にぐはニヤリと笑った。
「そうよ、私が出る」
その瞬間、にぐの周りに真っ赤なオーラが放出された。赤いオーラは部屋全体に充満し、茹だるような熱気に包まれる。
「だから、私たちが負けることはないの。だけどね」
にぐはウェディの男の頬に、手を触れて言った。
「万が一に私が倒れることがあったなら…その時は頼むわよ」
ウィディの男は、目を瞑るにぐの肩を抱いたのだった。
能力は「地獄のアブソープション」
相手の能力を吸収する、異質な能力。先行であれば能力発動は用意であり、大会後半になるにつれてその強さは増していく。ただし能力を吸収するまでは丸腰同然である。
ハッチ
ロッソの背中が見えた気がした。
ハッチは、裏通りを駆け抜ける、しかしそこには誰もいなかった。
「また・・・」
膝から崩れ落ちるハッチ。
あれから、ずっとここで歌っている。彼が気づいてくれるまで、ずっとそうするつもりだった。
しかし、何の手がかりも掴めないまま時がすぎて、ハッチの精神はすり減っていた。
「おい、そんな追い込むなよ」
「あなたは黙ってて!」
ヤスンの手を振り払うハッチ。
「おお、こわ。でも、本当無理すんなよな」
そう言って、帰ろうとするヤスンは、はたと足を止める。
「あ、そういやこれ、なんか面白そうだったから、買ったんだ。お前にやるよ」
「何よ・・・これ。『ザブック・オブ・エイボン』?」
「よくわかんねーけど、なんか背表紙がかっこいいからさ、お前こういうの好きかと思って」
ハッチはその日から、部屋に閉じこもるようになった。
そして、いつしかその部屋からは、不気味な歌が聞こえ出てくるようになったという。
能力は「ポイズンロックンロール」
発動させれば、3ターンで必殺となる能力。返されれば自分が負けることになる、強い制約を糧とする。発動条件から解毒条件を類推することは、かなり難しいと言えるが果たして。
ビッカム
「能力を開放する!変身!アストルティアブラッド!」
「ぐごごご出おったな、にくきアストルティアブラッドよ!」
「やったー!アストルティアブラッドー!」
「少年よ、もう安心だ!さあ、おうちに帰るがよい!」
巨大なハサミを手にした異形の怪物から少年を守るように、ビッカムことアストルティアブラッドは立ちはだかった。
さあ、ヒーロータイムだ。
「今日こそ、散るがよい!ビリビリ怪光線!」
「グアアアアアア」
ビッカムはその光線にビリビリとして、倒れた。
「ここまで・・・・か・・・」
「ハーッハッハッハ!アストルティアブラッド!敗れたり!」
その時だった。
「天知る、地知る、人ぞ知る!アストルティア、ブルー参上!」
「ブルー!」
「綺麗なバラにはトゲがあるわよ!アストルティアピンク!」
「ピンク!」
「レモンが大好き!アストルティアイエロー!」
「イエロー!」
「4人合わせてアストルティアレインボウ!怪人よ死ぬがよい!」
「ぐわー!つよいー!」
能力は「ヒーローおたくおじさん」
変身するところが見たいという運営の満場一致を得て選ばれしおじさん。
能力はしりとりとは特に関係ないが、すごく頑張ってほしい。
フジコ
「32個能力考えた」
「お、おう、言ってみて」
「まずね、ザ・フジコ」
「ふむ」
「これが発動したらフジコが超頑張る」
「ふむ」
「次がザ・フジコ絆」
「ふむ」
・・・
「以上です」
「4つやん」
「いい?」
「いいと思う」
今大会最多となる32の能力を持つ男。
ただし、そのうち4つしか教えてもらわなかったので実質は4つである。
「ザ・フジコ極」「ザ・フジコ滅」はかなり発動条件が厳しいと思われるが、発動したら会場全体を巻き込む最強の能力。しりとりと関係するのは二番目だけである。
ポッペン
「なあ、俺のことおいてくなよ!」
ガタラの坑道。
ぽっぺんは生まれつき足が悪かった。
厳しい鉱山稼業の中で、ポッペンは少しずつ立場を失っていった。
「ポッペンが帰ってくるまで、先で待ってるから」
仲間たちの冷たい仕打ちに、ポッペンは悔しくて涙が流れた。
そんなある日だった。
「あれ・・・なんだこれ」
一人遅くまで働いてたポッペンが見つけたのは、坑道のひび割れにわずかに見える、光だった。
「この奥に、何かある・・・?」
ピッケルで割れ目を開くと、その中には、黄金の鉱脈が広がっていた。
その日以来、ポッペンの生活は変わった。
手柄を得て、場の棟梁を任されることになった彼は、その才能が顕在する。
次々と鉱脈を探し当て、ガタラでは知られぬもののない富豪となった。
「ポッペンさん、成功の秘訣は?」
ある日、雑誌の記者にインタビューされた彼は、こう答えた。
「いつだって、誇りを失わないことさ」
能力は「エンペラーミータイム」
相手にいいところを言わせることを強要するという特殊能力。相手が初対面である可能性も高いため、精神的な苦痛を負わせることは可能。しりとりには直接影響しないが、長引けば長引くほど相手の戦意を奪うことができるだろう。
ルーツ
カミハルムイ剣術学校。
多くの生徒が切磋琢磨するその中で、ルーツは決して優等生ではなかった。
合格率2割を切ると言われる、その最終卒業試験の場において、ルーツは何度も失敗していた。
「ルーツ、どうだった?」
「うん・・・また、ダメだった」
「そっか・・・」
同級生、そして下級生までもが卒業していく。
何度もやめてしまおうかと思った。
しかし、その度に、ルーツを励ます女性がいた。
「ルーツ、頑張れ。諦めるな!」
「ハルさん」
彼女はいつしか、風のように消えてしまった。
でも、彼女の笑顔の残滓に後押しされて、ルーツは見事、卒業を勝ち取ったのだった。
今ではルーツは、名の知れた剣豪となった。
そして風の噂に聞いた。恩人が、闇の大会に出ることを。
「今度は、僕が恩を返す番だ」
ルーツは一人、ウェナへの船に乗り込むのだった。
能力は「TRY AGAIN」
シンプルな能力ながら、1ターン自動で返すことができる、デメリットの少ない能力。強力とは言えないながらも、発動条件が見破られるまでは、不気味なプレッシャーを与えることができるだろう。
大会の夜
大きなピラミッド型の館に、幾人もの人々が集っていた。
彼らは闇の招待客。そしてこの大会の、見届け人である。
「さすが、揃えてきましたね」
「ふん、あなたもね」
会場の奥底で、仮面の男と、オーガの女は対峙していた。
「全力を出しましょう、お互いにね・・・」
その時、司会者の声をかき消すように、部屋の明かりが消えた。
悲鳴と歓声に会場が包まれる中、仮面の男は立ち上がった。
「さあ、開演です」
能力者たちの夜が、再び幕を開けたのだった。
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(中身はそんな長く書かない予定・・・です多分!)
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