第一回能力者しりとりバトル
第二回能力者しりとりバトル
ほしみ
それは第1回能力者しりとりバトルが終わって、数日の後のことだった。
荒涼と広がる砂漠を歩く一人のプクリポがいた。
その体にはいくつもの生新しい傷が刻まれ、足取りはふらふらとおぼつかない。
フードの下にわずかに覗くその顔は土気色に乾き、割れた唇が脱水症状を思わせた。
「もう・・・少し・・・」
彼女の名は「ほしみ」
第一回能力者しりとりバトルの優勝者である。
その彼女は、灼熱のゴブル砂漠の中道で、まさに行倒れる寸前だった。
妙に世界が明るく感じる。
音が何だか聞こえにくかった。
乾いた砂の上で、ただ右の足と左の足を交互に進ませる。
そのことだけに、ほしみは小さな体に残されたエネルギーを燃やしていた。
日が暮れるころ、小さなオアシスにたどり着いた。
顔を水に投げ出すようにして、一口の水を飲み干す。
助かった・・・
オアシスのほとりに横たわると、彼女は仰向けに空を見上げ、意識を失った。
目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
石造りの天井が見える。
乾いた冷たい空気が心地よかった。
「ここは・・・?」
「あっ目が覚めたみたいだね」
一人のドワーフが、水差しとコップを手に、こちらにやってきた。
彼は、人懐っこそうな、優しい目をしていた。
「ほら、お水をどうぞ。あっ、まだ動かないほうがいいよ。よっぽど体力を失っていたみたいだったから」
ドワーフはそう言うと、コップに水を注いでくれた。
ほしみは冷たい水を口に含むと、急に喉の渇きが思い出されて、体が熱くなった。
無我夢中で飲みほす水が、乾いた土に水を注ぐように、体全体に染み込んでいくように感じた。
「ありがとう、助かったわ。あなたは?」
「僕はプリック。この辺りで暮らしているんだ。驚いたよ、オアシスに水を汲みに行ったら、君が倒れてたんだから」
「そうだったの…あなたは、命の恩人ね」
「恩人なんて、そんな、大げさな」
ドワーフは顔を赤く染めて、照れた様子でキョロキョロと視線を彷徨わせた。
「あっそうだ。美味しいパンも焼けるんだ。ここで待っててね、上等なバターもあるんだよ」
そう言って、ドワーフは席を立つと、部屋の奥に向かった。
ほしみは、その後ろ姿を見送ると、そっとベッドから降りた。
土の床を音を殺して、歩く。
鼻歌の聞こえる厨房をそっと覗き込むと、楽しげにパンを焼くプリックの後ろ姿が見えた。
ほしみはローブの中から、小さな傘を取り出した。
傘を開き、くるりと回す。
途端、部屋中の湿度が下がり、小さな窓からは、冷たい風が吹き混んできた。
乾いた砂漠の真上に、巨大な積乱雲が現れる・・・
「ごめんね、プリックさん…」
『お天気お姉さん改』!
ほしみが、傘を振り上げたその瞬間。
真っ白に輝く世界が、轟音とともに、爆発した。
瓦礫となった住居の上、紫色の傘を下すほしみ。
黒こげになったプリックが咳き込む。
「ゴホ、ゴホ…これは…ライデイン…?ほしみさん…?」
「さすが、まだ息があるのね…ごめんなさい、あなたは私のターゲットなの」
「…」
「あなた、黒の教団のメンバーよね…。来月の能力者バトルに出場する予定だったのでしょう?でも、そうはさせないわ」
「知ってたんだね…僕のこと…」
「勝負は大会前から始まってるの…油断したあなた達が、悪い」
「そうか、油断しちゃったな…」
ほしみは、ドワーフの消えゆくようなかすれ声に、心が痛んだ。
でも、仕方がないんだ。世界を守るために、私は鬼になる。
「じゃあ、さようなら」
「…でも」
立ち去ろうとするほしみに、プリックが呟いた。
「油断したのは…君も、さ…」
「!」
振り返るほしみ。
プリックは目を閉じ、すでに意識を失っているように見えた。
しかしその瞬間、ほしみは猛烈な痛みを腹部に感じた。
「あっぐ・・・ああ!!」
毒・・・!
さっきの、水の中に・・・!
体の内部から何か違う生き物が這い出てくるかのような強烈な痛み。
筋肉が麻痺してしまったのか、息を吸うことも、吐くこともできない。
「く・・・そ・・・・みんな・・・」
プリックの傍に、ほしみは倒れた。
遠のく意識の中に、仮面の男達が見えた気がした。
「ごめん・・・あとは・・・たのんだよ・・・」
かおりしゃん
あの大会の数日後。
小さなレストランの一角で、かおりしゃんは座っていた。
二人掛けのテーブル。
しかし、座っているのはもうかおりしゃん一人だけだった。
冷めてしまった料理は半分以上が手付かずのままだ。
こうなることは、わかっていた。
だから、後悔なんてしていない。
でも、どうしてだろう。
とても晴れやかな気持ちなのに、涙は止まらなかった。
夜道を一人歩きながら、スマートフォンを開くと、かおりしゃんは彼の連絡先を消した。
そして、ほしみにLINEを送る。
彼女は私に勇気をくれた、恩人だ。
あの大会の後も、私にたくさんの応援をしてくれた。
感謝の気持ちを伝えようと思った。
しかし、なかなか既読にならなかった。
いつもはすぐに返事をくれる彼女なのに。
かおりしゃんは、なんだか胸騒ぎがした。
ほしみ?
自分のことで精一杯で気付かなかったけれど、そういえば最近なんだか、彼女の元気がなかったような気がする。
その時、暗い夜道に冷たい風が吹いた。
「・・・何のよう?」
「ほしみさんは、やられました」
「!? どういうこと!」
「場外乱闘が始まっているということです」
「・・・無事なの?!彼女は!」
「命に別状はないでしょう・・・しかし、戦闘不能な状態です。前大会優勝者を失ったことは我々にとって非常に大きな痛手です」
「・・・」
仮面の男はそういうと、懐から一枚の仮面を取り出した。
それは、その男がつけているものと非常によく似た仮面に見えた。
「ほしみさんの代わりになってほしいとは言いません」
「ただ、次の大会は非常に大きな混乱が予想される…普通の戦いでは、なくなるでしょう」
「そこで、あなたにも手助けしてほしい」
「・・・私は、もう能力は使わないわ」
そう言うと、かおりしゃんは仮面を顔にあてがった。
「でも、ほしみの意志を継ぐ。手を貸しましょう、あなた達に」
「・・・感謝します」
ぷにゃりん
そしてしばらくの後・・・。
「これで家具は揃ったね!」
「いやーかおりしゃん!本当助かりましたよ!前回の会場は小さすぎるので大きな会場にしようと思ったんですけど、お金が一切なかったので!」
「まかせてー!私お金持ってる系エルフだからー!!」
「ただ後はこれを上手に並べるのが大変そうですね!」
「あっ、そのへんは私のフレンドにやる気の子いるよ!」
「フレンド?」
「あ、ちょうど今来たみたいだよ!」
「はーい!ぷにゃりんだよ!」
「・・・」
「えー弊社を希望された動機をお聞かせいただけますでしょうか」
「はい、ぷにゃりんなら出来る、そう思ったからです」
「ふむ、それですでに仮面も用意されてきたと」
「いつでもいけます」
「じゃあまあよろしくお願いします。あっ服ももうあるんですね」
「ぷにゃりんにまかせてください!」
数日後。
「できた・・・」
「三日かかったね」
「誰かがフォートナイトしてたからってのもあるけどね」
そして大会が始まったのでした。
次回、大会史上最大のカオスとなったデスノvsノンブル!
轟く悲鳴!次々と落ちる回線!阿鼻叫喚の結末は!!