(一つ前の試合)
「そうですか・・・力を、求めるのですね」
「はい。アレフガルドの地に伝わる伝説の虹の力。それがどうしても必要なのです」
そこは冷たく薄暗い祠の中。
一人の神官と、シルクハットをかぶった一人の男が対峙していた。
「あなたのその目の奥に宿る闇の力。その力をもってしても、不足だというのですか」
「私の力は希望と、そして絶望を統べる。しかし、それだけではきっと勝てない・・・今度の戦いは、もっと恐ろしい戦いになる」
神官は、その男の目に揺蕩う深淵を覗き込んだ。
地獄をくぐり抜けてきた男の目だ。
だが、その闇は濁ってはいない。
純粋な闇。
照らされる光に依って、悪とも、善とも変わりうる。
「ー良いでしょう。あなたを信じましょう。にじのしずくを手に入れるのです」
「にじのしずく」
「にじのしずくを手に入れるためには、雨雲の杖、太陽の石が必要になります。まずはそれから手に入れるのです」
雨雲の杖
鬱蒼と茂る森の奥底に、古ぼけた尖塔が立ちすくんでいた。
その内部には多くの魔物が徘徊する。
その頂塔にたどり着いたサワッチの体は、ぼろぼろに傷つき、血にまみれていた。
軋む体に鞭をうち、大きな扉を開くと、そこには薄明かりに輝く女性が立っていた。
「ついに きてくれたのたね エックス」
「わたしは ルビスのせいれい あのひ あなたのこころによびかけたのは わたし」
「あっきっとそれ人違いです 私はサワッチ」
「・・・勇者じゃないッ!何奴!」
「ご無礼いたす」
サワッチの扇がひらめく。
ピンク色の竜巻がルビスの精霊を多い、体を浮かせる。
「ぐ、ぐぁーーーーーーっ」
大きな爆発とともに精霊は霧散する。
塵と化したその跡に、一本の古ぼけた杖があった。
「これが・・・雨雲の杖」
太陽の石
「しかしサワッチさん、本当にやるんですか」
「はい、ラダトーム城にあるという太陽の石・・・しかし私にはどうしても見つけられなかった。ならば、もうこの手段しかありません」
「わかりました、それでは、しっかり捕まっていてくださいよ・・・3・・・2・・・1・・・ライドオン!」
ボシュアアアアア
「見えましたよサワッチさん!」
「・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴ
「ああーッ!これ以上は近づけません!フレアがすごい!フレアが!」
「やっぱり行くの」
「じゃあ、サワッチさん!頑張ってきてくださいね!サワッチゴー!!ポチ」
「アアアアア」
「マヒャデドス!!マヒャデドス!!!心頭滅却!!アアアア!!アアアアアアアアア!」
「これが・・・太陽の石・・・!!!」
にじのしずく
「ほう、たしかにこれは雨雲の杖、太陽の石。ところであなたすごい火傷ですけど大丈夫ですか」
「にじのしずくをください」
「申し訳ない・・・一歩遅かったようです。すでに、にじのしずくはオルテガという男に渡してしまいました」
「なんてことを」
「やっと・・・やっとだ・・・これでゾーマの城にいけるぞ!このリムルダールの岬に、このにじのしずくを使えば」
「そこまでだ」
「誰だ!」
「そのしずく、渡してもらおう」
「な、なぜだ!俺はこれでゾーマの城に渡り、魔王を倒さなければならないんだ」
「気持ちはわかる。しかし私にも事情が・・・バギクロス!!」
「な、ナパァー!!!」
「やっと手に入れたぞ・・・これが、にじのしずく」
「なんてことだ・・・これでゾーマの城には行けなくなってしまった・・・」
「いかだで行けばいい」
「・・・」
希望絶望レインボウ
「戻りましたか」
「はい、それで、このにじのしずくをどうするのですか」
「あなたの、シルクハットに振掛けるのです」
サワッチは言われるがままに、そのしずくをシルクハットにふりかけた。
すると、シルクハットは眩く、虹色に輝き始めた。
「これが・・・にじのしずくの力・・・」
「そう、能力は希望絶望レインボウ・・・!この能力が発動すれば、世界は流転し、とめどなく変化し続ける」
「あなたなら、使いこなせるでしょう。勝ってくるのです、サワッチ」
「・・・アレフガルドの力、しかと受け取った」
サワッチはシルクハットを被り直した。
今度こそ、負けられない。
俺に夢を託して散っていった、ルビスの精霊、オルテガ、NASAの隊員のためにも・・・。
1回戦第5試合 サワッチ vs ジュイ
前半戦の盛り上がりから、少しの休憩を挟んだ会場は穏やかに騒めいていた。
誰々のあの能力は強い、あの能力との相性が悪い・・・
第一回を経て、観客もこの「能力者しりとりバトル」の見方も、玄人じみてきている様相だった。
そして、前回の第一回能力バトルの初戦、能力同士が絶望的にまでに噛み合ったあの伝説の試合・・・サワッチvsハッチ戦を知るものも多い。
強力な4つの能力を持つサワッチの「ゲルニカ」が、ハッチの「ストレンジカメレオン」の能力の前に手も足も出ず激敗したあの試合。
あの戦いは初戦にして、能力者バトルの真髄を内包する戦いであった。
そして、次の戦いは、そのリベンジに燃える男の戦い。
おそらく、相当に磨き上げられた能力で挑んでくるだろう。
観客たちの期待も一入高まっていた。
「さあ・・・それではいよいよ後半戦に突入します」
「出場者は・・・サワァアアアッッチ!!!」
半裸の男が、壇上に飛び乗った。
ざわめく会場。なぜ半裸・・・?
いや、しかし深い考えがあるのかもしれない。
「そして対戦者は・・・・ジュイィイイイイイ!!!」
名を呼ばれて、緑色のナースキャップを被ったエルフの女が登場した。
彼女は少し照れくさそうに会場を見渡す。
会場から、黄色い声援が上がった。
その声を聞いて、ジュイは嬉しそうに微笑んだ。
(おやおや・・・お友達ですか)
(しかし、この戦いに、そんな学校の発表祭のような気分で来ていいのかね)
サワッチは、あの日以来毎晩のように見る夢を思い出した。
「ハッチ選手の能力発動により、ハッチ選手のターンはパスされます」
「サワッチ選手、「る」です」
「なに!?」
「これは・・・語尾に「る」が続くんだから、サワッチさんが10回言わなきゃ、だよね?」
(もう、あの過ちは繰り返さない)
(このニューカマーに、能力者同士の戦いの恐ろしさを、教えてあげるとしよう!)
キッとジュイの目を睨みつけるサワッチ。
ジュイはニコニコと会場に手を振っていたが、サワッチの視線に気づくと、胸に手を当てて言った。
その瞬間、ジュイの目に赤い光が灯った。
一点、会場にはりつめる毒々しい邪気。
ニューカマー・・・しかし、それ以前にやはり彼女は、能力者なのだ。
うっすらと手ににじむ冷や汗を感じながら、サワッチは背後に隠し持ったシルクハットを握りしめたのだった。
「先行はサワッチ」
「りんご」
そう言うやいなや、サワッチは赤く燃え盛るように輝き始めたシルクハットをかぶる。
シルクハットからはまばゆい光が溢れ、サワッチの体にまとわりつき、収斂する。
その光が止んだころ、そこには赤い怪盗が立っていた。
「発動!サワッチの『希望絶望レインボウ』!」
発動能力:希望絶望レインボウ
どちらかが水分を含んだ単語が出た場合に発動する。
以後、サワッチのかぶるシルクハットの色しか答えられない。
シルクハットの色は、1単語ごとに赤➡︎黄➡︎緑➡︎青➡︎白➡︎黒➡︎ピンク➡︎赤と変化する。1週回って赤になったら、サワッチは死ぬ。
術者が7文字以上の単語で回答した場合能力は解除される。
ババーン
「シルクハットの色で制限する能力・・・!」
「色縛りか・・・しかし、この能力問題があるぞ・・・そうそれは」
(会場に溢れる声)
「サワッチが表示されてないから何色かわからない」
(運営を頑張る司会者と能力者)
(能力勝負は先手必勝・・・最初から、使わせてもらう!さあ、返せるかジュイ!)
能力の発動とともに、ジュイの身体は無数の赤い絹の糸に蝕まれていた。
身動きが取れない中、ジュイは考える。
「ご」で始まる・・・赤いもの・・・?
「いきなり何も浮かばないwww」
その言葉を聞いて、にやりと微笑むサワッチ。
観客も騒めく。
「確かに・・・浮かばないww」
観客に心配そうに見守られながら、ウンウンと考えるジュイ。
(正気をなんとなく取り戻したぺけぴー)
その様子をみて、サワッチは泰然として言った。
「これゴはきつかったかな・・・」
「かえる?」
「よ、余裕だ」
圧倒的優位に情けをかけようとするサワッチ。
しかし、その時彼は気づいてはいなかった。
先ほどまで背後に控えていた、かおりしゃん、そしてぷにゃりんの姿がなくなっていることに・・・。
(その裏、PTチャットにて)
「かおりしゃん、ぷにゃりん」
「ジュイの能力が発動しないか・・・会場を見回って、体調が悪そうな人がいないか回ってきてください)
「らじゃー」
「まかせて!」
・・・
「ここに、寝てる人がいる!」
「倒れてる!」
「・・・!」
その瞬間、ジュイの緑色のナースキャップから、禍々しい妖気が噴出した。
据えたような、消毒液の匂いが会場中に充満する。
それは、病院で嗅ぐような、特有の匂いー。
「ジュイの能力が発動!!」
「おたんこナース」
発動能力:おたんこナース
誰かが体調を悪そうにしていたら発動。
以後、相手は病名しか言えない。
また、自分は「お大事に」しか言えない。
「以後、サワッチは病名しか言えません」
「wwwwwwwwww」
「病名縛り・・・これは、キツイ制約」
「そんな強い能力・・・何かの制約もありそうだけど・・!?」
発動した二つの能力に、盛り上がる会場。
そして、観客は気づく。
このターン、ジュイが返した場合、次のターンサワッチは「赤い病名」の単語になることに。
病名しばりだけでもかなりの制約であるが、そこにさらに自らの能力である「色」縛りも加わる。
サワッチのリターンはかなり厳しいだろう。
だが、しかし。
それも全て、ジュイが「ご」で始まる赤いものを返せるか次第である。
「・・・」
帽子から妖気を振りまきながら、しかし顔を真っ赤にして悩むジュイ。
赤い「ご」、赤い「ご」・・・・
無情にも、時間が流れ、司会の男が声を上げる。
「まってwwwまってwww」
「5・・・4・・・」
「3・・・2・・・」
(行ける・・・か?!)
冷や汗を握りしめながら、サワッチは赤い絹糸でジュイを縛り付け続ける。
返されたら、厳しい。決まってくれ、希望絶望レインボウで、一撃で・・・!
「!」
(午後ティーストレート)
「セーフ!」
「やったーwww」
そのリターンの瞬間、サワッチのシルクハットは再び光り輝く。
赤い光線は、だんだんとその色を変えていく。
「ここで、サワッチの希望絶望レインボウがさらに発動!」
「サワッチのシルクハットは黄色くなります!」
「ころころ変わるのねwww」
黄色い絹の糸を全身にまとわせながら、サワッチは感じていた。
ジュイから発せられる、緑色の妖気にすくめ取られ、悪寒が止まらない。
返された。
ということ、は・・・。
「サワッチさん」
「黄色い病名ってなんだ」
「これはwwww大変だ!」
騒めく会場。
「病気に色って辛いw」
「哲学的ですらあるww」
難解な回答に制約された状態に、会場も動揺が隠せない。
バカな・・・一体どうしてこんなことに・・・
今回の能力こそ無敵だったはず・・・・
いや、負けたわけじゃない!!
これを返せば、まだわからない!
病名・・・!
黄色い病名・・・・!
応援の歓声が耳から遠ざかっていく。
集中の極限に達したサワッチの頭に無数の病気が浮かぶ。
その中・・・一番黄色っぽい病名は・・・
サワッチは、カッと目を開いた!!
「糖尿病」
沈黙が訪れる。
そして、しかし、司会者はゆっくりと首を振る・・・。
「黄色くありません!!」
「サワッチOVER!!!、ジュイ、WIN!!」
サワッチは、泡を吹き、崩れ落ちた。
黄色いシルクハットは、もはや輝きを失い、黄色く艶がかった光沢を放つのみとなる。
そして歓声に溢れる会場からは、しかし、とめどない拍手が送られていたのだった。
ジュイの応急処置により、サワッチはすぐに意識を取り戻した。
その手はとても暖かく、傷ついた体がみるみる軽くなるように感じた。
「大丈夫?」
「天使・・・は、いや、ありがとう」
サワッチは立ち上がった。心配そうに見つめる観客たちに向かって言う。
拍手に包まれる会場。
サワッチは、まっすぐに経つと、ゆっくりと着替えながら、会場全体を練り歩くのだった。
赤、黄色、緑、青、白、黒、ピンク。
虹色のシルクハットがその色を周回したとき、サワッチは椅子に座った。
勝てなかった。
全力を尽くしたのに。一体どうして。
その時、サワッチの脳裏に声が響いた。
相性・・・・
いや、本当それだった。
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なお、「と」で始まる黄色い病名は多分「特発性門脈圧亢進症」が正答になります。