能力者しりとりバトル 対戦表
薄暗い洋館の広間。
怪しげな松明がぼんやりと辺りを照らし、不思議な赤紫色の光を放つ照明具は中央のステージを明るく彩っていた。祭壇の前に立つ不気味な仮面の男は、両手を掲げ叫ぶ。
「サワァーーーーァーーッチ! !」
名を呼ばれ、サワッチはゆらりと立ち上がった。
「しりとりはゲルニカ」
誰に伝えるでもなく、呟く。その声色には、絶対の自信がにじみ出ていた。
控え室で並ぶ中、察することができた。自分の能力が、この16人の中でも抜きん出ていることに。もちろんその具体的な能力まではわからないが、オーラの絶対量の差は明らかだ。負けるはずがない。4つのゲルニカ・・・この能力に、隙はない。
サワッチは胸の首飾りを握りしめる。数多の犠牲を背負った。この怪しげな能力者バトルへの招待状に記されていた「あの文言」が本当だとすれば・・・俺は負けるわけにはいかない。
ステージに立つと物好きな観客達の雑言をかき消すように、対戦相手の名が呼ばれた。
「ハァーーーーッチ!!!」
ステージ奥から、オーガの女性が現れた。ふん、彼女が対戦相手か。ここに現れた以上、彼女もなんらかの業を背負い、そして負けられない理由があるのだろう・・・。緊張しているのか、口元をキッと結び硬い表情を浮かべる彼女を見つめ、サワッチは少し心が揺らぎそうになった。いや、いけない。弱い者を守るためには、犠牲も必要だということを、俺はあの戦争で嫌という程知ったはずじゃないか。ただ、勝つ。たとえ相手が女性だろうと、子供であろうとも・・・一つの情けもかけはしない。
「国家斉唱・・・アウイェーー!!」
リンと張り詰めた声で、突然歌いだすハッチ。彼女の母国の歌だろうか。短くも心に懐郷の念を抱かせるようなその不思議な旋律・・・。彼女は歌い終わると、サワッチを見据えた。その目にすでに緊張の色はない。戦闘民族、オーガの気高き燃える双眸を受け止め、サワッチは少し安心した。無力などではない、彼女もまた、戦士。
「それでは運命の第一回戦、開始! サワッチ選手の先攻です、どうぞ!」
ーただ、勝つ。このマリア像にかけて。
1回戦第1試合
サワッチ vs ハッチ
「リズミカル」
その瞬間だった。
先行のサワッチの、第1手目。
言葉をいい終わるやいなや、サワッチの体の周りに、青色のオーラが輝きはじめた。能力の発動である。
【発動能力:第3のゲルニカ】
「る」で終わった言葉が出た場合、以後10回は「る」で終わる言葉しか使えない
先行をいただいた以上一出し惜しみはしない。初手からこの最強の能力、第3のゲルニカでケリをつける。
「第3のゲルニカ発動!」
「サワッチ選手の『第3のゲルニカ』が発動。以後10回は「る」で終わる言葉を続ける必要があります」
これ以降、10ターンは「る」で始まり「る」で終わる言葉しか使えない。しかし、そのような言葉はこの世に数えるほどしかないし、突然思い浮かぶわけもない。10ターンも当然持つわけがない。だが、私は何個かそのような言葉のストックをいくつか持っている。
早くも勝利を確信したサワッチは、隠しきれない笑いを浮かべる。
「はっはっは」
しかし、その瞬間、気づく。相手のオーガの・・・ハッチの全身から、赤いオーラがにじみ出ていることに。彼女は笑っていた。
「なんだと!」
「能力発動・・・ストレンジカメレオン!」
【発動能力:ストレンジカメレオン】
相手が最後が「る」で終わる言葉を使用した時に発動。
次のハッチのターンはパスされる。
「ハッチ選手の能力発動により、ハッチ選手のターンはパスされます」
「サワッチ選手、「る」です」
「なに!?」
初手から互いの能力が発動するという、想像を超えた展開に、観客達もざわめいていた。
「俺は観客のプリック・・・おいおい、これはどういうことだよ。第3のゲルニカは「る」で始まって、「る」で終わる言葉を続ける能力で・・・。ストレンジカメレオンは「る」で終わるときターンをパスできるってことだろ・・・?」
そんなバカな。そんな、バカな・・・!
サワッチはすべてを理解し、そして全身から溢れる出す冷たい汗を感じた。
燃える双眸のオーガは、そんなサワッチに向け言う。
「これは・・・語尾に「る」が続くんだから、サワッチさんが10回言わなきゃ、だよね?」
静寂が訪れる。足が震え始める。
バカな、そんなバカなことが・・・。
「ルール」
「再びハッチ選手の能力発動により、ハッチ選手のターンはパスされます」
暗転する。まさか、こんな俺にとって、最悪の能力にぶちあたるなんて・・・。
混濁する意識の中、燃えるマリア像が見えた気がした。彼女の顔はもはや原型を失われていたが、今ならわかる。あの時、彼女の顔は・・・泣いていたんだ。
「ルクセンブルク」
「語尾が「ク」!アウトです」
「サワッチOVER!!ハッチ選手の勝利です!」
「アウイェーーー!!」
膝から崩れ落ちるサワッチ。終わった。
能力の強さでは明らかに俺が上だったはず・・・どうして・・・。
「最悪の相性だ」
「このしりとりバトル・・・必要なのは強さだけじゃない・・・むしろ強運・・・勝ち残るのは、神に見初められし者・・・」
「さあ、次の闘いに参りましょう・・・次の戦いは・・・」
辺境の薄暗いの洋館の一室で、異様なまでに盛り上がる観客達の熱気と、まだ見ぬ能力者達の不気味な胎動。
この長い夜は、まだ始まったばかりー。
控え室ー。
ハッチは大きなため息を着くと、控え室に戻った。にじみ出る汗。間違いなく強敵だった、でも、私の能力がその上をいった。拳をぎゅっと握りしめる。いける、戦える。絶対に、優勝するー。
その時だった。
「『る』がトリガーになるのか」
隣からぼそりと声が聞こえた。薄暗い中に見える、ピンク色のアフロヘアーのオーガだ。その目はサングラスに隠されて、表情はうかがえしれない。
「なん・・・だと」
「その能力、果たして2回戦以降で・・・通用するかな、ククク・・・」
冷たいナイフで心臓をえぐられたようだった。そうだ、この勝負、まだ続く。そしてこの戦いで、私の能力は全員にほぼ知られてしまった・・・。
一瞬、取り返しをつかないことをしてしまったのか、という気持ちになる。しかし、冷静に考えればそれはきっと、これからの対戦者たちも同じことだ。
ー情報を、集めないと。
ハッチは顔をあげ、ステージを見つめた。そこには小さなプクリポと、派手な格好のウェディがいた。試合はトーナメント、あの二人のどちらかが私の次の相手になる。ううん、そして彼らだけじゃない。これからの試合で戦うことになる、すべての相手の能力を知ること・・・それがこれからの戦いに勝つための絶対条件になる。
ハッチは再び拳を握りしめた。誰であろうと絶対に、負けるわけにはいかない。私には、勝つ道しか残されていないんだから。
続き⬇︎