一つ前⬇︎
「工場長、今日は無理言ってすみません」
「やあよく来たねプラン君」
「ここが…工場なのですね」
「そうさ。俺たちはここで柿の種を作っている。はは、そう緊張するなプラン君。入りたまえ、案内しよう」
フゴー!!
「こ、工場長!?これは!?」
「おどろいたかねプラン君。これはエア・シャワー。ここで衣類についた汚れを取り除くんだ」
「何という徹底された衛生管理・・・」
「さあここからが本番だよプランくん。見たまえ、これが蒸米だ」
「こ、工場長ー!!すごい熱気がぁー!!」
「驚いたかいプラン君。米に蒸気を入れてよくこねる、これで生地ができるんだ。日の湿度によって含ませる水の量は変わるから注意が必要だ」
「日々、自然との戦いというわけか・・・」
「そしてできた生地を柿の種の形に切り込んで焼く」
バァアアアン
「工場長ーーッ!!!いい香りがー!!」
「「「これが柿の種だよ!」」」
「はっあなた方は!!」
「「「プランくん!俺たちの分まで・・・」」」
「「「戦ってきてくれよ!!」」」
「みなさん・・・」
「プランくん。柿の種を思う君の気持ちは本物だ。僕たちは君という人に出会えたことを本当に嬉しく思っている。柿の種、それは確かに一つのお菓子にすぎないかもしれない。でも、俺たちはこの仕事に命をかけているんだ。この一粒一粒、これは俺たちの汗であり、涙であり、そして魂そのものなんだ。こいつをパリポリと食べる、そしてうまいと言ってくれる、誰かのその一言のために俺たちは生きてきた。さあプランくん、君ならやれるはずだ。もう君は俺たちの仲間さ。どんな戦いが待ってるかは知らない、でもな、今の君ならどんな相手にも負けるはずがない。なぜなら、プラン君。君の心の中には、ほらいつだって、こいつがあるだろう。そう、パリ、ポリ、うまい!柿の種さ」
「ちくしょう・・・涙が止まらねえや」
「そして・・・こいつも持っていけプラン君。これが俺たちにできる、最後の君への手助けさ」
「これは柿の種チョコレート味・・・!」
プランは工場を後にした。
工場のみんなはプランが見えなくなるまで手を降り続けていた。
みんなの思いを背負った俺が負けるはずがない、プランはそう思った。
1回戦第5試合
プラン vs かおりしゃん
熱気狂乱が渦巻く会場に、アナウンスの声が響き渡る。
一回戦も後半に突入する中、会場のボルテージは高まるばかりだ。
「では次の戦い、5戦目!能力者はプラァアアアアアン!」
プランは立ち上がる。懐の柿の種を取り出すと、パリポリと食べた。
天から工場長の声が聞こえた気がした。
(・・・パリ、ポリ、うまい!柿の種さ・・・)
よし、行くぞ!!
ステージに悠然と躍り出る。
大きな歓声を浴びながら、プランは叫んだ。
「うおおおおおぉぉぉぉーーーーー!!!」
会場全体を震わせる轟音。
すでに勝利を確信しているかと思わせるような、それはまるで鬨の声だった。
そして、対戦相手が告げられる。
「そして相手はぁ!KAORISHAAAAAAAN!!」
呼ばれて、ステージ裏からすたすたと一人のエルフが現れる。
女は、プランを一目し、そして会場にぺこりと頭をさげた。
「こんにちは!!!」
女は華奢な体をまっすぐに伸ばすと、にっこりと微笑む。
桃色の薄手のブラウスが会場の歓声に揺れている。
ステージで並ぶ大きなオーガと小さなエルフは、まるで対照的に見えた。
「こ、これは、かおりしゃんって能力者も運がないよ、1回戦からあんな大男と闘うことになるなんて」
「プリック・・・あなた、気づかないの。本当に運がないのはどちらかって・・・」
「えっ、どういう・・・わあ!にぐどうしたの!すごい汗じゃないか!あっノンブルも!」
「・・・可愛い顔して・・・とんでもねえバケモンがいたもんだぜ」
会場の何人かは既にその張り詰めた空気に気づいていた。
それはまるで、この場に何かとんでもない爆弾が設置されていると知ったかのような、えもしれぬ恐怖だった。具体的に何が起こるのかまではわからない。だけども、会場の何人かは本能的に出口の場所を確認していた。いざという時には逃げられるように。
そしてそんな不穏な空気の中、司会者からの声が響き、試合が始まった。
「はい、それではスタートです!かおりしゃん先行でどうぞ!」
「ドックラマッコイ」
プランは冷や汗が止まらなかった。
なぜだか、目の前に相対する小さな女が、まるで巨大な獣のように思えた。その赤い目に見据えられると、心臓に冷たい鎌があてがわれているような気分になる。バカな、俺が、気圧されている?この、俺が・・・?いや、俺には工場のみんなが、工場長がついているんだ!プランは天を見上げる。工場長の声が聞こえてきた。
(・・・パリ、ポリ、うまい!柿の種さ・・・)
工場長・・・。
やれる。やれるぞ。俺の能力が負けるはずがない!!
「イコプ!」
「イコプ・・・?そういえば、司会者の名前だっけ?そんな個人名はダメなんじゃ・・」
「・・・」
「プ、です。かおりしゃん」
「通ったー!」
女は、ふうん、というかのようにくるりと視線を巡らせると、答える。
「プロバイダ」
よし、ダ、ダ、ダ・・・、考えろ俺、ダ・・・。
思考を巡らせようとしながらも、プランは足の震えが止まらない。
本能的に、この女の能力がとてつもないものだと感じていた。
工場長・・・俺に力を、工場長・・・えっ・・・お前は・・みさえ・・・プラノスケ・・・!?
その瞬間、プランの脳裏に我が家で待つ妻と子の顔が浮かんできた。
玄関で手をふる息子。そして息子の手をとり、いつものように優しい眼差しで俺を送り出してくれる妻。
だが、その後ろには紅い目を光らせた女、かおりしゃんの巨大な顔が笑っていた。その巨大な手が妻を、息子を掴む。
残酷な笑みを浮かべた女は手に力を込めー・・・
「俺の負けでいいです!!!」
静まり返る会場。
寸刻の後、アナウンスが響き渡る。
「プランOVER!かおりしゃんの勝利です!!」
かおりしゃんの勝ちが決まったその瞬間、会場に立ち込めていた絵も言われぬ危機感は霧散していった。
「ふ、ふう・・・・」
「ギブアップ・・・」
安堵と不安が混じり合う騒めきの中、かおりしゃんだけはつまらなそうにつぶやいた。
「勝っちゃったわ」
かおりしゃんは、膝をつくプランのもとにスタスタと近く。そして張り付いたような笑顔を崩さぬまま、尋ねた。
「能力は?」
プランはその赤い双眸の奥に漂う虚ろを見た。
勝てなかった。こんな相手に、勝てるわけがなかった。
しかし、これでよかった。このまま戦いを続けていたら、俺は本当に大切なものを失っていたかもしれない。
「柿の種の奥深さ」
プランはそうとだけ答えた。
かおりしゃんは少しだけ首をかしげると、まあどうでもいいかとでもいうようにかぶりをふり、ステージ裏に戻っていった。
プランは懐からチョコレート味の柿の種を取り出した。
工場長、あんたが助けてくれたんですね。
このチョコレート味の柿の種は、俺はそれほど好きじゃあないけれど、みさえと、プラノスケが大好きなものだったから。
帰ろう・・・。
顔をあげたプランのその顔は、誇り高きオーガの戦士の顔に戻っていた。
(控え室にて)
キョロキョロ
・・・
じー・・・
・・・
じとー・・・
「なに?」
「ねね!私と同じプクリポだね!」
「そ、そうね。だからどうしたの?」
「ううん、それだけだけど・・・でも、プクリポ同士ってなんか嬉しくなっちゃうから」
「まあ、私もプクリポだもん、わからないでもないけど。でも、戦う相手になるかもしれないのよ?仲良しこよしってわけにもいかないでしょ」
「どうして?楽しいよ、みんなで一生懸命戦うのって」
「・・・あなたはどうしてここにきたの?」
「もちろん、優勝するためだよ!せっかくご招待いただいたからね」
「そうなのね。それならやっぱり、私たちは仲良くしちゃだめだよ。あなたも、・・・気づいてるでしょう?」
「あ・・・・うん。・・・似てるってことだよね」
「能力者は似た能力を持つものに惹かれ合う・・・きっと、他の能力者も感じていること。だから、私たちが仲良くしてたら、お互いの能力の類似に気づかれちゃう。それはダメよ。せっかくあなた、能力を残して勝ってるんだから」
「わかった。でもね、せっかくの大会だもん。私は楽しんでやりたいな」
「・・・それは私も同じ。まあ、お互い頑張ろうね。それで戦うことになったら、そのときは正々堂々戦おう」
そういって二人のプクリポは、にやっと笑いあうと、大きく手を広げてお尻をふった。
そろそろドラクエブログランキングから「ドラクエ?」って怒られる気がしてきましたが、ワッショイワッショイ!ドラクエブログです。
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