(一つ前の試合)
「そうですか、まだ…戻りませんか」
「ああ・・・あれから、ずっとこうだ・・・」
そこはメギストリスの城下町、とある宿屋の一室。
ベッドの上から、仮面の男を恨めしげな目で見つめながら、ぺけぴーは言った。
「おじちゃん、もう帰ってよ!僕はしりとりなんてしないよ」
「ぺけぴー・・・」
「記憶が戻る様子はなさそうですね・・・。いや、これは記憶というより別の人格が生まれてしまったかのようにも見える」
「ベツのジンカクだって…ドウイウコトダ」
「ぺけぴーの能力・・・ニープレスナイトメアは一撃必殺の凶悪な能力。ぜひ、その力を貸していただきたいと思っていましたが・・・その能力の代償はあまりにも大きかったということでしょう」
「能力の、代償ですって・・・」
「あまりにも強すぎる能力・・・その闇の力に精神が無意識のうちに防衛反応を起こしているのです。通常の精神の器では受け止めきれない圧力に対して、幼児期の人格を生み出すことで、非現実に逃げ込んでいる」
「そんな・・・ぺけぴーは、もう戻ってこないのか?」
「・・・私に考えがあります」
夕暮れ。
赤茶けた暖かい日差しが、窓から差し込んでくる。
ぺけぴーは一人、遠く山の稜線に揺らめく太陽を見つめていた。
「早く家に帰りたいなあ・・・」
その時だった。旅館のチャイムが鳴った。
「ぺーけーぴくん!あーそーぼー!」
「えっ!誰だろう」
ベッドからトンと降り、ぺけぴーはおずおずと扉を開けた。
「ぺけぴくん!!遊ぼ!!」
「えっ。誰、おじちゃん」
「やだなあ!ぺけぴくん!おじちゃんじゃないよ!僕は君と同じ小学校3年生さ!」
「3年生・・・?」
「なんだか、きんにくがすごいけど、ほんとうに3年生なの?」
「そうさ!とにかく遊ぼうよ!バトエンやろ!」
「えー!!バトエン!?やるやるめっちゃやるー!」
「うわー!イコプくんのゴーレム強いなあー!!」
「ぺけぴーくんのあらくれチャッピーもすごい強いね!」
「あー楽しかった!ねえ、また遊ぼうよ!」
「・・・ううん、それは出来ないんだ」
「えっどうして?」
「僕はもう直ぐ、バトエンの大きな大会に出るためにウェナ諸島に行くんだ・・・。だから、もう遊べない」
「そんなー!バトエンの大きな大会に出るために・・・?じゃあ、僕もそれに出る!イコプ君と一緒に大会に行きたい!」
「ぺけぴー君なら・・・そう言ってくれると思ってたよ!よし、一緒に行こう!」
「うん!よーし!頑張るぞ!!」
(・・・ニヤリ)
それからしばらくの時が流れ。
丑三つ時。ウェナ諸島の辺境に位置する大きな洋館の中。
闇の瘴気が立ち込める会場の奥底で、ぺけぴーは震えていた。
「う、うう・・・ねえ、本当にこれ、バトエンの大会?」
「あ、ああ!そうだぞぺけぴー!もうすぐお前の出番だからな、頑張るんだぞ!」
「うん・・・よし、僕のはぐれメタルの力を見せてやるぞ」
(ねえ、本当にここに連れてこれば、ぺけぴーの記憶が戻るの?)
(わ、わかんねーけどよ・・・他に手はねえんだ、今はあの男を信じるしかねえよ)
「さあ、第4回戦を始めましょう!!」
「次なる能力者は・・・ぺけぴぃいぃぃぃ!!」
「ほ、ほら!ぺけぴー!お前の出番だぞ!」
「よーし、頑張るぞ・・・ん・・・?」
「能力者・・・?能力者って何・・・うっ・・・頭が・・・・痛い・・・」
「能力者・・・能力・・・?うう・・・・誰・・・誰かが僕の頭の中で・・・暴れてる・・・!!」
割れるような頭の痛みに襲われながら、ぺけぴーは無意識に壇上に足を進めていた。
まるで自分の体を別の誰かが動かしているような不思議な感覚。
ステージの上で大きな歓声を浴びながら、ぺけぴーは体を震わせていた。
「前回準優勝・・・ぺけぴー。やっぱり、出てきたか」
「ニープレスナイトメア・・・恐ろしい能力だったわね」
「ん・・・?でも。なんだか様子がおかしいぞ・・・」
ぺけぴーは全身から玉のような汗を出し、呻く。
その様子を、司会の男は見つめていた。
(そう・・・ぺけぴー。ここが本来の貴方がいるべき場所。帰ってくるのです)
(貴方は、戦闘民族オーガの血を持つ『能力者』なのですから)
「お、おいぺけぴー、大丈夫か!!!」
ババババババ!!!
「ぺ、ぺけぴいいいー!!!」
ドーン!!!
シュワシュワシュワシュワ・・・・
ぺけぴーは身体中から煙を上がらせながら、首をゆっくりと回すと、ゆらりと、会場を見渡した。
そして、口を開く。
「ぺ、ぺけぴーだ!」
「俺タチのぺけぴーが!」
「帰ってきたー!」
「なんだかわからないけれど良かったみたいね!」
「うおおー!」
大歓声の中、ぺけぴーは身体中に生気がみなぎるのを感じていた。
長い夢を見ていたようだ。
その夢の中では、小さな男の子と遊んでいた。
「ねえ、おじちゃん。勝つことってどういうことか知ってる?」
「簡単さ、相手を倒すってことだろう」
「ううん違うよおじちゃん。勝つってことはね」
「ー負けないってことなんだよ」
(あの夢の中で俺は学んだ・・・)
(最強の力、それは必殺の能力ではなく・・・)
(不殺の守りであると!!)
ぺけぴーは、全身の筋肉を揺らせると、対戦者を見つめた。
そこには、一人のエルフの女が立っていた。
女は、壇上で小さく息を吐くと、静かに言った。
その言葉は、会場全体に凛として鳴り響いた。
さっきまでの喧騒が嘘のように、静まり返る会場。
ぺけぴーは女の周りに薄暗い陽気が立ち込めているのを見た。
(この女も・・・出来る)
(だが、相手にとって不足なし。新生ぺけぴーの力、見せてくれよう!)
第2回能力者しりとりバトル 1回戦第4試合 ぺけぴー vs ホユ
「先行はぺけぴー!!どうぞ!」
その瞬間だった。
ホユの周りにうっすらと立ち込めていた妖気が、突風となって舞い上がり、ぺけぴーの体に貪りついた。
「発動!」
「ホユの『女神の笑壺』!」
「使わせないでって言っていきなり使ってきた」
発動能力:女神の笑壺
ガヤがガチャで「w」を出すと発動。以後、相手はウケを狙った発言をしなければならない。なお、ウケなくてもペナルティはないが、精神的ダメージを負う。
「以後、ぺけぴーはウケを狙った言葉しか使えません」
(その斜め上の能力に、観客は驚き笑い、明日は我が身の出演者は怯える様子)
その様子をみて、ホユはにやりと笑っていた。
(さあ、ショーの始まりよ。あなたに、私の相方が務まるかしらね)
「仮面ライダー」
ぺけぴーのターン。
名詞のみでウケを狙う。
想像に難くない窮地。
そんな中、ぺけぴーがたどり着いたアンサーは・・・!
(ウケる会場)
(ウケる審判団)
(やるじゃない)
「しかばね」
「ねるねるねるねwwwwwwwwwwww」
<すごくウケる>
<なんかもう恐ろしくなってるチーマー>
「ネカマ」
「マルコポーロっwwwwwwww」
<天才ぺけぴーが爆誕>
<水を得た魚状態>
「ろうそく」
「くちぱっちwwwwwwwwww」
(?)
(くちぱっちって、何?)
「審議に入ります!」
検討する審判団
そのとき、ぺけぴーが口を開いた。
「くちぱっちとはたまごっちの進化形態であり」
「初心者ならだれもが通る道である」
「セーフ!誰もが通るのでセーフ!」
「超元気玉」
「マリリンモンロゥwwwwwwww」
「ロビンソンクルーソー」
その瞬間だった。
一瞬ぺけぴーの動きが止まった。
ここまで冷静に戦いを運んできたホユは見逃さなかった。
ぺけぴーの背後に、まばゆいオーラが溢れ出していることを・・・・
(・・・!くるのね、能力が!)
ぺけぴーの突然の叫び声とともに、会場が真っ白に輝いた。
驚く観客たち。そして一瞬の沈黙。
何事もなかったかのように、光は消える。
司会の男が、叫んだ。
「発動!!!ぺけぴーの『罷通』!!!」
発動能力:罷通(マカリトオル)
自分が「罷通」!というと発動。
1ターン、前の単語関係なくまかりとおる。
次のプレイヤーは「る」で始まる言葉でしりとりを続ける。
この能力は1試合に1回しか使用できない。
「このターン、ぺけぴーはまかりとおります」
能力の強さにざわめく会場。
しかし、観客たちは知らない。
これで、ぺけぴーはこの試合、能力を使えなくなったことに。
「る、です>ホユ」
「ルービークキューブ」
(さあ、ぺけぴー・・・もう能力は使えない。あなたの、底力、見せてもらいましょう)
それから先は死闘だった。長きに渡る歴史に残る戦い。
ここまできたらノーカットでお送りします。
「ブリティッシュwwwwwww」
wwww
wwwwwww
「ユナイテッドアローズ」
「発動!ザ・5文字!」
その瞬間、会場に濁ったような重い空気が立ち込める。
司会者の能力、ザ・5文字。発動である。
発動能力:ザ・5文字
司会者が「これ終わらんちゃう」と思い始めたら発動。
5文字以上の言葉に制限される。
「ズッキーニっwwwwwww」
「ニクソン大統領」
「ウィンチェスターライフルwwwwww」
注:ライフルの一種
「発動!ザ・6文字!」
会場の空気がさらに一段と重くなり、まるで水中にいるかのように息苦しさを感じ始める。
ザ・6文字である。
「ルパン三世」
「インターンシップっwwwwwwww」
「プリンアラモード」
「ドレッドノートwwwwwww」
注:イギリス海軍の戦艦
「トルティーヤ」
「やまとたけるのみことwwww」
「トマトケチャップ」
「プーチン大統領wwwww」
「セーフ!ただし、以後大統領をつけるのは禁止!」
「ウルトラマンティガ」
「ガソリンスタンドwwwww」
「ドストエフスキー」
(この人たちすごい・・・)
「発動!ザ・7文字!」
会場の中の空気がまるで粘土のようになったかのような圧倒的閉塞感。普通の人間では息苦しさに発狂しそうになる。それが、ザ・7文字。
「キューブリックwwww」
「クリスマスキャロル」
「ルートシックスティシックスwwwwww」
注:ジャズスタンダードの名曲の一つ
(感心しはじめる場内)
(感心する審判団)
「ザ・8文字!」
もはや普通の呼吸はできず、目を開けているのもやっと。コンクリートの詰められたかのような絶望的な閉塞感。人間が長く生存することは不可能な状態。それがザ・8文字。
「スリジャナワルダナプラコッテ」
「グレイト!!」
「テンガロンハットwwwwww」
「グレイト!!」
8文字以上しりとりのすさまじい応酬。
人知の限界を超えた、無限にも続くかと思われたバトル。
その終止符はしかし唐突に・・・訪れるのであった。
「東京大学」
「クリスマスキャロルwwwwwwwwww」
「!!」
会場に立ち込めていた硬い空気が薄らいでいく。
「二度目の、クリスマスキャロル・・・」
観客たちの悲鳴にも似た落胆の声とともに・・・
試合は、終わったのだった。
「ぺけぴーOVER!!!」
「ホユ、WIN!!」
司会の言葉とともに爆発するぺけぴー。
そのまま、きりもみ回転で落下し、上半身半分が床に埋まった。
「ぺ、ぺけぴぃいーー!!!」
必死で仲間たちがぺけぴーを引き抜く。
傷だらけになったぺけぴーが目を開けると、その目は、つぶらな瞳に変わっていた。
「あっ・・・ぺけぴー、まさかまたお前!」
「戻っちまったー!!!」
その喧騒を見つめながら、ホユは満足げに、そして少しだけ疲れたようにつぶやいた。
名勝負に拍手に包まれる会場。
仲間たちに手を引かれて去っていくぺけぴー。
彼はその手に、大事そうにバトエンを握りしめていたという。
4回戦が終了し、休憩時間となった。
前回準優勝者が一回戦敗退、そして優勝者は不参加。
誰もが感じていた。
この戦い、前回の大会とは違うと。
「ふん・・・面白くなってきたじゃない」
にぐは、首に下げたロケットを開いた。
そこには、ローブを身にまといにこやかに笑うウェディの男がいた。
「アメジスト・・・この戦い、やっぱり私も本気を出さないとダメみたい」
「もし、私がダメだったら・・・頼むよ」
にぐは小さくそう呟くと、ロケットをパチリと閉めたのだった。
一個一個の長さがヤバイ感じになってきましたが後半も頑張って書いていきます
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